麦さんぽ

思ったこと、起こったこと、感じたこと、そんなこと。

1杯の餌付け

 諸用で新越谷駅に初めて降り立った。

 普段東京の限りなく埼玉に近い箇所に住んではいるものの上り方面に出かけることが多く、生まれてこの方20年新越谷駅には来たことがない。

 電車の扉が開きホームに足を着け、エスカレーターに乗りホームを後にする。と、麦は驚いた。

 どうせ乗り換えで経由するだけの埼玉の駅だ、大したことはなく古びたホームに古びた改札がありそこを抜けるだけだろうと思っていたのだが、しっかりと栄えていた。改札があるフロアは本屋雑貨屋洋服屋が並び、更にはルミネ的なサムシングもあるぞと主張している。ここで麦は埼玉に対する認識を改め、自信が持っていた偏見を新越谷は除くものとした。

 しかしながらは埼玉、埼玉であるからには埼玉であった。

 北千住には遠く及ばずとも麦の最寄り駅を遥かに上回るパフォーマンスを持つ東武スカイツリーライン新越谷駅は、まるで人類が何かしらの危機をどうにか耐え凌いだ後のように人っ子一人居なかった。明確には一人二人、もう少し人は居たと思うが、確実に人類が何かしらの打撃を受けた後のようだった。勝手にテンションが上がる麦。そして自身の最寄り駅の方が人間が多く生息している事を誇りに思う麦。ふっ、埼玉め。

 上から目線で乗換えるべく改札を目指している麦に新たなる刺客が訪れる。

 ───STARBUCKS COFFEE

 遙か昔記憶にも残っていないその頃、麦の最寄り駅にも存在したと言われている幻の存在。通称スタバ。いくら駅構内のコンテンツが秀でていようが人が居ないこの駅に存在するなどとは。完全に想定外。

 いやしかし麦も都民。都会人では無いものの都民ではある、年がら年中すたばを飲むしこちとらいつも後楽園で飲んでるんだ都外のすたばに恐怖心などない、もっては、いけ、ない。

 一度深呼吸をしてリラックス。ここで右手にやつがいないのが残念なところではあるが、さすがは都民麦、このアウェーな状況でも冷静を取り戻す。

 ふふん、どれどれ、私は今時間が無いのでお相手することは叶いませんけれど、どうでしょう、どのくらい強いかくらいは確認してあげてもよろしくてよ?

 果たして本当に冷静なのかはともかくとして、ガラス張りの店内を除く。キャパはそんなに広くなく20〜30席くらいだろうか。ぽつぽつ席は空いている。

 ほーん、あ、そーゆーかんじねはいはいはい。

 最寄り駅から一駅先の最寄りスタバを思い出す。こちらはほとんどのタイミングで並ぶし、席も運が悪ければ空いていない。つまるところ勝利であり、その程度なのだ。やはり埼玉。ふふふ。

 平日の昼過ぎの完全なオフピークであることを念頭に置いていない麦は一人心の中でガッツポーズをしてスタバを後にする。

 東武スカイツリーラインの改札を出てJRの改札にたどり着くまで、ほんの少しの距離だったが新越谷という場所はまだまだ見所がありそうだった。

 なんかよくわからない建物によくわからない建物が沢山並んでた。よくわからないが多分飲食店とかなんか色々。

 建物の高さに埼玉にもあるんやすげえと生意気な感想を持ちつつも、でも田舎も駅周辺だけ異様に力入れてるよな、なんかそんな匂いがぷんぷんするぜと勝手な偏見と決め付けをしてJRの改札に足を向けた。

 今年の半ばには家を出なくてはならない、家賃だったり色々を加味した結果、埼玉のちょうどこの辺の区間は選択肢の中に上がってきている。そんなタイミングで雰囲気が知れたのは良かった。

 まあ、ええ、住んでやっても?良いかなとか?思いましたね、ええ?

 都民とは何たるかを履き違え、勝手にマウントを取りまくっていた麦の視界の右端に何かが映る。攻撃されたら見るも無惨な爪痕が残りそうなエナジードリンク

 次なる刺客かと臨戦態勢に入る一歩手前、お姉さんにプロモーションで配布している旨の説明を受け、ありがたく頂戴する。現代っ子には欠かせない生きるための活力。エナジー

 自然と口角が上がってしまっているのに気付き、マスクを直すフリをして顔を背け改札へと急ぐ。

 ふふへへ、へーん、ほーん、いいじゃん、別に君ならそれくらいのことやってのけると思ってたけど?いいじゃん、へえ。まあ、住んでやってもいいかな。