麦さんぽ

思ったこと、起こったこと、感じたこと、そんなこと。

同じ日を見ていた。

 社会の一員になって早4ヶ月、今年も夏が訪れた。

 7月の希望休、その場で決まっている飲み会だけ出してあとは適当。何も予定の無い7月22日は当然出勤。

 7月も半ばに差し掛かり、ふと花火を思い出す。

 ここ数年は色々あって花火大会には行けていないな。手持ち花火とクライナーを持ち寄って、時間も何も忘れてはしゃぐのもいいけれど、やっぱり人と轟音の中で上を見上げるのも悪くは無い。同級とは最近飲み歩いてばかりだし、今年は花火大会、見に行ってもいいんじゃないか。

 そんなことを日暮里舎人ライナーのホームに張り出された花火大会のポスターを見て思う。今年こそは、夏くらいは、久々に、微アルコールで。

 早速友人を集めようとスマホを開く。その前にと、スプレッドシートを開いてシフトの確認。当然、出勤。

 それもまあ仕方の無いことで、大人しく手持ち花火大会でも計画しようかと思い何もしないまま7月22日、夜。

 今日が花火大会なんてことはついさっき村田に連絡を送るまでは気付かなかった。労働の疲れから目を背けるように、YouTubeで映画漫談動画を視聴しながら揺られる日暮里舎人ライナー。車窓が寂しそうな肩を映す。

 青汁大好きなYouTuberの動きが止まり、画面右上を確認する。5G。針は2本。普段はこんなことないのに、なぜ。しばらく動画をつけては消してを繰り返してから思い当たった。そうか、花火大会。ここら近辺でみんながスマホを使うから、電波が悪いのか。

 ため息をついて、しばらく目を休ませようか、寂しそうな肩でも見つめようかと向かいの車窓を覗く。

 少し離れた川の上、赤、金。花火が見える。少し先の駅、扉が開けば軽いような、重いような、花火の弾ける音が聴こえる。

 かつてのクラスメイト、小説を隠した奴、机にラクガキをした奴、仲の良かったあいつ、ホラ吹きのアイツ、2人でいれば無敵だと笑ってくれたあの子、キラキラしたインスタグラム、足立を遠く離れた村田。車窓から、同じ灯を見ている。

1杯の餌付け

 諸用で新越谷駅に初めて降り立った。

 普段東京の限りなく埼玉に近い箇所に住んではいるものの上り方面に出かけることが多く、生まれてこの方20年新越谷駅には来たことがない。

 電車の扉が開きホームに足を着け、エスカレーターに乗りホームを後にする。と、麦は驚いた。

 どうせ乗り換えで経由するだけの埼玉の駅だ、大したことはなく古びたホームに古びた改札がありそこを抜けるだけだろうと思っていたのだが、しっかりと栄えていた。改札があるフロアは本屋雑貨屋洋服屋が並び、更にはルミネ的なサムシングもあるぞと主張している。ここで麦は埼玉に対する認識を改め、自信が持っていた偏見を新越谷は除くものとした。

 しかしながらは埼玉、埼玉であるからには埼玉であった。

 北千住には遠く及ばずとも麦の最寄り駅を遥かに上回るパフォーマンスを持つ東武スカイツリーライン新越谷駅は、まるで人類が何かしらの危機をどうにか耐え凌いだ後のように人っ子一人居なかった。明確には一人二人、もう少し人は居たと思うが、確実に人類が何かしらの打撃を受けた後のようだった。勝手にテンションが上がる麦。そして自身の最寄り駅の方が人間が多く生息している事を誇りに思う麦。ふっ、埼玉め。

 上から目線で乗換えるべく改札を目指している麦に新たなる刺客が訪れる。

 ───STARBUCKS COFFEE

 遙か昔記憶にも残っていないその頃、麦の最寄り駅にも存在したと言われている幻の存在。通称スタバ。いくら駅構内のコンテンツが秀でていようが人が居ないこの駅に存在するなどとは。完全に想定外。

 いやしかし麦も都民。都会人では無いものの都民ではある、年がら年中すたばを飲むしこちとらいつも後楽園で飲んでるんだ都外のすたばに恐怖心などない、もっては、いけ、ない。

 一度深呼吸をしてリラックス。ここで右手にやつがいないのが残念なところではあるが、さすがは都民麦、このアウェーな状況でも冷静を取り戻す。

 ふふん、どれどれ、私は今時間が無いのでお相手することは叶いませんけれど、どうでしょう、どのくらい強いかくらいは確認してあげてもよろしくてよ?

 果たして本当に冷静なのかはともかくとして、ガラス張りの店内を除く。キャパはそんなに広くなく20〜30席くらいだろうか。ぽつぽつ席は空いている。

 ほーん、あ、そーゆーかんじねはいはいはい。

 最寄り駅から一駅先の最寄りスタバを思い出す。こちらはほとんどのタイミングで並ぶし、席も運が悪ければ空いていない。つまるところ勝利であり、その程度なのだ。やはり埼玉。ふふふ。

 平日の昼過ぎの完全なオフピークであることを念頭に置いていない麦は一人心の中でガッツポーズをしてスタバを後にする。

 東武スカイツリーラインの改札を出てJRの改札にたどり着くまで、ほんの少しの距離だったが新越谷という場所はまだまだ見所がありそうだった。

 なんかよくわからない建物によくわからない建物が沢山並んでた。よくわからないが多分飲食店とかなんか色々。

 建物の高さに埼玉にもあるんやすげえと生意気な感想を持ちつつも、でも田舎も駅周辺だけ異様に力入れてるよな、なんかそんな匂いがぷんぷんするぜと勝手な偏見と決め付けをしてJRの改札に足を向けた。

 今年の半ばには家を出なくてはならない、家賃だったり色々を加味した結果、埼玉のちょうどこの辺の区間は選択肢の中に上がってきている。そんなタイミングで雰囲気が知れたのは良かった。

 まあ、ええ、住んでやっても?良いかなとか?思いましたね、ええ?

 都民とは何たるかを履き違え、勝手にマウントを取りまくっていた麦の視界の右端に何かが映る。攻撃されたら見るも無惨な爪痕が残りそうなエナジードリンク

 次なる刺客かと臨戦態勢に入る一歩手前、お姉さんにプロモーションで配布している旨の説明を受け、ありがたく頂戴する。現代っ子には欠かせない生きるための活力。エナジー

 自然と口角が上がってしまっているのに気付き、マスクを直すフリをして顔を背け改札へと急ぐ。

 ふふへへ、へーん、ほーん、いいじゃん、別に君ならそれくらいのことやってのけると思ってたけど?いいじゃん、へえ。まあ、住んでやってもいいかな。

【読切小説】鳥籠

 また一人、将来を見せたかった人が巣立った。溜息を着くと私自身もどこかへ飛び立ってしまいそうで、紅茶と一緒に飲み干した。

 部屋には弾きかけのシンセサイザー。それと散らかった衣類に誰のものかも分からない頭髪。私が停滞して何も意味をなさない行為に耽っている間に、彼らはまた息を引き取った。

⬛︎

 音学校を卒業して早三年、一人暮らしをするには広すぎるこの家はどうしようもない人達の集会場所になっていた。いつか大きい山を当てると言いつつも全く作曲が手についていない私も、その一人だ。

 この家には幼少期から住んでいる。家族は住んでいないが、実家だ。弟は大学の学生寮に入ると家を出て、両親は田舎に引っ込んだ。どちらとも一年以上顔を合わせていない。当初の予定では毎月親の口座に入れる約束になっていた家賃も、いつの頃からか入れていない。そんな最中の母親からの電話で居留守を使うか赤い受話器を取るか迷っていたが、生ゴミのうちの一人に「家賃がやばいって話なら俺らも協力するから、出なよ。久々の親からの電話なんでしょ、何か後悔することになったら嫌だなぁ」と後押しされて出る事にした。

「従姉妹のお爺ちゃん、昨日の夜亡くなったって」

 年に一回も顔を合わせない程度の間柄の人だが、気さくで陽気な人だったのを覚えている。…思い出はこれといってある訳じゃないが、好印象を持っていた人が亡くなるのは気分の良いものじゃない。

 葬式の兼ね合いで近いうちにこの家に戻るらしい、その連絡だった。

 もう随分とぬるくなった紅茶を一口飲んでおじさんの事を思い出す。こうして思い出してみれば、いつかの私の曲を聴かせたい相手かもしれなかった。亡くなってから故人としたい、してあげたい事を思いつくなんて人としてどうなのだろうか。私はより一層自分に自信をなくした。

 浮かない顔してるよ、という彼におじさんの事を話した。ご愁傷様ですという言葉を貰い、頭を撫でられた。

 今日はもう気分じゃないとシンセサイザーの電源を落とす。今世っていう鳥籠から巣立ったんだよ、おじさんにはこれからもっと広い世界でもっと楽しいことが待ってるよ。そういう彼の言葉にはちっとも心が揺られなかった。頭を撫でる彼の手がゆっくりと首へ、その下へと下っていく。

 私にとってはこの家が鳥籠だ。この中に居れば何不自由なく暮らしていけるが、反対にこの鳥籠にいる限り私は何も成せない、そんな気がした。

【読切小説】砂糖に注ぐ珈琲

 朝起きて、極稀に珈琲を入れる。「淹れる」ではなく「入れる」。どこかしらのお手頃価格のブランドの珈琲、ペットボトルに眠り日夜冷え続けているそれを、一ヶ月に一度もないくらいの程度で、入れる。

 最初は砂糖も入れずに飲むのだが、一口と持たない。私はブラックコーヒーが苦手だ。苦いものが苦手な訳では無い。ゴーヤーチャンプルーも好んで食べるし、カカオうんパーセントのチョコだって食べる。好みはしないが。

 一度に大した量は注がないので、一口飲んで半分に満たないくらいになったそれに、氷と牛乳を注ぎ入れる。牛乳が入ってしまえば無糖でも問題ない、美味しく飲める。

 普段は朝に弱く昼手前に起きるが、こういう日は別で今はまだ午前七時頃。たまに朝早く起きれて目覚めがいい時の、ほんの少しの贅沢なのだ。

 私はこの朝の時間で、一度たりともブラックコーヒーを飲み干したことがない。今までの人生でも一度しかない。

 最初の一口にブラックコーヒーを飲むのは、その時のことを思い出すためでもあり、切り離すためでもある。あの時の私とは違うのだと。

 今の私はあの頃と比べて変わった。風に吹かれてしまえば飛んでいきそうな、息を吹かれれば消えてしまいそうな私からは幾分かマシになった。胸も二回りほど膨らんで、学生の身であるからアルバイトにはなるが、当時に比べればそれなりに稼ぎは良い。何度か恋人も出来ては別れ、その道中に大人の階段も登った。自暴自棄になり遊び呆けてしまおうと思ったものの、自力で思い留まり軌道修正した。大人ぶったガキにならずに済んだし、(健全な)夜の遊び方も心得た。あの頃ほど甘くはない。

 暖色のライトを見上げながら、牛乳と混ざった珈琲を飲み干す。

「もう少し甘い方が美味しいな」

一等星

「あんなクソ男と別れて正解だよ」

「だよね、やっぱりそうだよね!」

 


 毒を吐かれ、毒を吐く。そうして自分を肯定する。吐いた分アルコールを入れて、煙草の煙と毒を吐く。そうすると気分がふわっと軽くなって、思い出も少しは忘れられる。

「でも麦ちゃん、あんなに仲良さそうだったのにね。おばさんは悲しいよ」

 枝豆の実を割り箸で器用に取り出してつまみ、ビールを煽るのは親友の凛。先日まで彼氏持ち。

 凛に習ってビールを一口煽ってから話を続ける。

「おばさんじゃないでしょ、まだ私ら二十歳だよ。仲良さそうはよく言われるけどねー、カップルなんて外から見たら皆そーよ」

「あんたらは余計によ。ストーリーとかいつもすごいじゃん」

 インスタグラムのストーリー機能。普段滅多に投稿しないけどデートの時はつい多投してしまう。

「ストーリーなんて楽しい瞬間しか切り取らないもん。それか文字多めの病みツイート、私はしないけど」

「すいませんね、病みがちで」

 凛は普段からも投稿するタイプで、いつもなら美味しそうなイタリアンとかオシャなカフェとかが多いけど、彼氏と別れてからは小さい文字びっしりの投稿を連投している。タイミングも良かったし見てられなくて開催されたのが今日の飲み。

「もも、ぼんじり、あとビール二つね」

「え、またアルハラ?訴える?」

「いーじゃんいーじゃん、飲も飲も」

 中国人のお姉さんに運ばれてきた焼き鳥と、頼んだ覚えのないビールが目の前に並ぶ。

 腹いせに凛の好物のぼんじりをひと串ひったくる。

「まあまあ私の話は良いからさ、麦の話を聞かせてよ」

 えー、と嫌な顔をして「思い出したくないしなぁ」「まだ飲み足りないか。次何飲む?」「分かった分かった、話すから話すから」「よし来た」。何そのガッツポーズ。あざといかよ、アルハラ魔人め。

「何から話せばいいんだろ、馴初め…はでも何となく話したもんね」

 一年近く前のことだ、懐かしいな。

「どこからでもいいよ、話したいこと話しなさいな。時間は沢山あるんだから」

 そう言って腕時計を外してポケットに入れる。凛のこういう気遣いが大好きだ。

「去年の夏前にさ、付き合い始めたじゃん」

 専門に入学して直ぐに向こうからのメッセージが会ったこと、翌日に会って話したこと、夜中に河川敷で会って告白したこと、その前からグイグイ来られてたこと、初めてのデートのこと、空振りまくりの三ヶ月のこと、一度別れて復縁したこと、より一層仲が良くなったこと、色んな所にデートに行ったこと、初めての誕生日サプライズのこと、ディズニーに二人で泊まったこと、家族とも仲良くなってくれたこと。お別れしたこと。

「そこまで仲良くて、どうして?」

「どうって、私もよく分からないけど。多分、疲れちゃって」

 思い当たる節は無いわけじゃない。その瞬間じゃ感じ取れない小さな事がありすぎて、その分楽しくて見えなくなってた事が沢山あって、それで。

「それで、疲れちゃったのか」

 半分残ったビールを飲み干して、頷く。目の前に行儀良く居座っていたビールの泡は欠片も残ってない。私も人魚姫になりたい。

「潮時、ってやつだよね。麦だってやりたいこと沢山あるだろうし、うん」

 辛いけどね、辛いよね。そう言って凛もビールを飲み干す。泣かないために酒を飲むんだって。

「辛いけどさ、前に進むしかないって思ってる、言い聞かせてる。凛の話はまだ詳しく聞けてないけどさ、後で別れてよかった、ざまあみろって思えるように人生豊かにするんだ」

「それが間違いないね」

 私は私の目標のために頑張るんだ。そうじゃなきゃ私もあいつも報われない。

 あいつへの感謝のお返しでもあるんだから。

 

 

 

 温かい朝日が瞼を通して私の世界に入ってくる。

 見知った天井、もうあの人とは見れない天井。

外の寒さと心の温もりと

お久しぶりです、彼女のバイトの出待ちをしています。鳩米麦です。

前回の投稿『オーガニック』読みました? あれ、別に特に深い意味は無いんですけどね、ただただ思い浮かんだコンセプトに沿って話を書いて、納得いかない所を修正して、それで結局コンセプトが脱獄して。そうして出来上がった話なので尚更意味は無いんですよ。いえ、意味はあるのかもしれませんがそれをあの小説でびったり全て伝えきれるかと言われればそうとは言えなくて、でも何でもかんでも深読みするような君なら伝えたいことを感じ取れるかもしれなくて。まあ結局、受け取る側の問題ですね。

受け取る側と言えばもう時期バレンタイン。皆さん予定あります?僕はあると信じていますがあげるって言われたりあげないって言われたりで弄ばれています。まあきっと貰えるのでしょうけど弄ばれています。でもそれも楽しいので良いですし貰えたらそれは凄く嬉しいのでまあ何を言いたいかと言われると惚気です。

2月14日、バレンタインデー。恋人の日やチョコの日として知られていますがヴァレンティヌスが処刑された日になります。司教は皇帝が決めたなんやかんやを破ってそんなこんなで処刑されたのですが、まあ色々思うところはあったりなかったり。まあその時代に生きてないから何でもいいけど。でも故郷に妻や子供が居ると士気が下がるって言うのはどうにも解せないですよね。映画とかでも妻が、子供がって戦争頑張る人居ますし。とりあえずこれ読んだ人はみんな起源を調べよう。知識を吸収してから死ね。

果たして自分の命日がカレンダーに残るのはどんな気持ちなのか。

外は寒い。2月の夜ともなるとコートを着ていようが寒い。なんなら昼でも寒い。そんな2月に赤ん坊として産まれたの、生物としておかしい。2月に産まれたのならせめて寒さに強くして欲しいしそれが無理ならあと4,5ヶ月はセックスするのを遅らせてくれ。ちなみに私の誕生日はヴァレンティヌス司教が処刑され、ルペルカーリアの祭りが行われ、ようやく来る。特別な日の連続。毎日が特別ならいいのに。でもルペルカーリアのようにカレンダーに載っていない日はあるし、それを含めたら毎日お祭り騒ぎかもしれない。万歳。

あ、来た。

【読切小説】オーガニック

 喧嘩をした。理由は些細な事だった。なんでそうなったのかも分からないほど、些細な事。それまで溜まった鬱憤が何気ない事で煮え切ったのだ。関係ない引き出しを引っ張り出して投げつけ合う。その間キャッチボールは不可能。デッドボールの押し付け合い。進塁するもすぐにアウトを取られホームに戻る。イタチごっこの殴り合い。夜は一人で明かした。
 どこかのブランドのポシェットが部屋に放ったらかしにされているのが目に付く。届けてやろうなんて思わない。気は進まない。
 寝癖も直さないままキッチンへ。いつも通りのモーニングルーティン。コーヒーをドリップして、口へ運ぶ。相変わらず苦いそれを一口飲んでカウンターへ置く。苦いのは好きじゃない。
 香り高い黒の液体で着いてこない頭と体を起こしてスマホを開いていつもの相手に電話をかける。
「また彼女と揉めたんだ。今一人なんだけど会えないかな」
 了承の声。どこに行けばいい?
「最近出来たカフェがある。君、珈琲好きでしょう。一緒に飲もう」


 程なくしてインターホンが鳴る。扉を開けて挨拶も交わさずに接吻。扉を閉めて、キス。靴も脱がず、寝癖もそのままで絡み合う。接吻、接吻、キス。触れ合って、溶け合って、混ざり合う。
 コーヒーはまだ温かい。