麦さんぽ

思ったこと、起こったこと、感じたこと、そんなこと。

【読切小説】オーガニック

 喧嘩をした。理由は些細な事だった。なんでそうなったのかも分からないほど、些細な事。それまで溜まった鬱憤が何気ない事で煮え切ったのだ。関係ない引き出しを引っ張り出して投げつけ合う。その間キャッチボールは不可能。デッドボールの押し付け合い。進塁するもすぐにアウトを取られホームに戻る。イタチごっこの殴り合い。夜は一人で明かした。
 どこかのブランドのポシェットが部屋に放ったらかしにされているのが目に付く。届けてやろうなんて思わない。気は進まない。
 寝癖も直さないままキッチンへ。いつも通りのモーニングルーティン。コーヒーをドリップして、口へ運ぶ。相変わらず苦いそれを一口飲んでカウンターへ置く。苦いのは好きじゃない。
 香り高い黒の液体で着いてこない頭と体を起こしてスマホを開いていつもの相手に電話をかける。
「また彼女と揉めたんだ。今一人なんだけど会えないかな」
 了承の声。どこに行けばいい?
「最近出来たカフェがある。君、珈琲好きでしょう。一緒に飲もう」


 程なくしてインターホンが鳴る。扉を開けて挨拶も交わさずに接吻。扉を閉めて、キス。靴も脱がず、寝癖もそのままで絡み合う。接吻、接吻、キス。触れ合って、溶け合って、混ざり合う。
 コーヒーはまだ温かい。